第8回看護人間工学部会公開研究会・講演会開催
平成12年8月26日(土) 早稲田大学理工学総合研究センター
講演会
看護とバーチャルリアリティ
野呂影男(早稲田大学人間科学部授)
1989年ごろより腹腔鏡手術から始まった医療におけるバーチャルリアリティの応用が、現在では外科手術を模擬体験するシステムまで発展してきていること、立体映像による奥行きの表現は、臓器の位置や細かい操作まで可能にしているため、まれな症例でもバーチャルに体験できることなどから、バーチャルリアリティの仕組みや導入までの経緯をお話していただきました。
またこれからのIT時代には、コンピューターを介したよりリアルな情報の中で、人と人とのコミュニケーションが発展していき、専門家と非専門家の情報ループが活発擦る中で、人と密接に接する看護領域こそ、情報に対する動きに敏感であるべきでしょうというご意見もいただきました。
ご講演をお聞きした後に、看護は経験が重要な専門分野でありながら、初学者に対する学習方法やや患者様への情報提供、生活体験の共有、予防・予測といった視点での、バーチャル体験というものを考える機会を持ちました。
早稲田大学理工学総合研究センター野呂研究室見学会
野呂研究室では、「チェアクリニック」の流れや身体計測・グローブ測定法(対象物を様々な方向から撮影しあらゆる角度の回転を可能にする撮影法)について、説明を受けました。
見学後、今までは道具に自分を合わせていた自分を発見しました。病院や医療施設では、まだ「マルチ」がもてはやされているのが現状です。しかし、時代はオーダーメードなんだなと感心しました。オーダーメード医療は遺伝子治療だけの世界ではないのです。看護も「個別性」という言葉に頼っているのではなく、根拠をもったオーダーメードにむけて戦略を考えなければならないと痛感しました。
一般演題
1.医療・福祉応用を目的とした立体ディスプレイシステムの開発
河合史(早稲田大学国際情報通信研究センター)
2.車椅子移乗介助者の筋負担の分析-身長差の違い-
水戸優子(東京都立保健科学大学看護学科)
3.ベッドアップ角度の違いによる体圧への影響に関する研究
木村静(大阪大学大学院医学系研究科)
阿曽洋子、高田喜代子、新田紀枝(大阪大学医学部保健学科)
片山恵、細見明代(大阪大学大学院医学系研究科)
4.長時間座位保持の身体負担と体圧
三家礼子、藤巻吾朗、野呂影勇(早稲田大学人間科学研究科)
5.マルチボディ・システムを用いた姿勢に関する数値シミュレーション
箕浦哲嗣(愛知県立看護大学)
6.更年期女性の自律神経機能の特徴
佐伯由香(長野県看護大学)
7.音刺激が心拍変動に及ぼす影響
長坂猛、田中美智子、須永清(宮崎県立看護大学)
増田敦子(東京医科歯科大学)
楊箸隆哉(信州大学)、榊原吉一(金沢工業大学)
8.チェアクリニックの現状と今後
寺岡拓(早稲田大学理工学総合研究センター)
9.グローブ測定法の開発と看護事例
橋本鮎子(早稲田大学大学院人間科学研究科)
第9回人間工学会システム連合大会
平成13年3月17日(土) 八王子大学セミナーハウス
1.在宅酸素療法対象者の即時解析システムに関する基礎的研究
亀井延明(明星大学理工学部機械工学科)
在宅酸素療法(HOT)対象者の新管理指標として開発されたDIHOT-K(亀井智子:1995)は、24時間、覚醒時・睡眠時と長い時間でのデータを採取した後の算出値であった。そこでできるだけ短い時間で解析できるパラメーターの検討を行った。これまでSpO2の低下度に対して重みWを用いて表していたが、検討の結果ΔWは対象者の呼吸状態の変化に即応しているパラメーターと考えられる。
2.自然な寝返りに近い体位変換の援助を考える-マットレスの違いによる体動の変化-
大久保祐子(自治医科大学看護短期大学)
健常者はどのように寝返りを行っているのか、普通マットレスと褥瘡予防用マットレスで観察を行った。普通マットレスに比べ褥瘡予防用マットレスでは体幹の向きを変える大きな体動は減少し、頭や四肢を動かす体動が増えていた。健常者では接触部分の減圧や関節・筋肉が同じ肢位でないように、部分的な動きを含めた体動が行われていた。
3.青年期女子におけるタイプA行動パターンと自律神経機能の検討
大野純里(愛知県立看護大学)
女性では月経周期による自律神経機能の変動が大きく、冠状動脈精神疾患を引き起こすとされるタイプAと自律神経機能との関連が明らかではない。そこで月経周期を卵胞期に統一してタイプAとタイプBの自律神経機能を比較した。その結果青年期女子についてタイプAはストレスの影響を受けやすいという男性とほぼ同様の結果となる可能性が示された。
4.看護テキストに関する人間工学的研究
三家礼子(早稲田大学大学院人間科学科)
野呂研究室でこれまで行ってきた看護系教育機関への看護人間工学の教育・教材提供など、看護的視点に立った人間工学の蓄積を、看護テキストとして編纂準備を進めている。基礎編・応用編、最新の情報をふまえ編纂予定で、快適な看護作業のためのデータベース化も進める計画である。
5.手術後患者におけるベッドからの起き上がり動作の力学的検討(その2)
中島佳緒里(愛知県立看護大学)
腹部手術後患者で観察されたベッドからの起きあがり動作について、体幹回旋動作を基本に側臥位になり起きあがる方法、柵を用いて起きあがる方法を比較した。その結果、力学的能率の視点では側臥位になり起きあがる方法が優れているが、主観的には柵を用いて起きあがる方法が負担が少なく楽であるという評価を得た。
6.Parentingのための準備教育-育児体験ベビィーの効果-
高橋真理(愛知県立看護大学)
8種類の理由によって異なった泣き声を出し、適切な対応をすると泣きやむように制御された育児疑似体験人形で育児体験をしてもらい、前後で育児に対する感情と育児行動の変化を測定した。人形であっても児を中心とした生活を体験し、育児が持つアンビバレント性を現実に実感でき、parentingへの準備教育としても有効であることが考えられた。
7.クッション材の違いによる官能量と体圧分布量
小山秀紀(早稲田大学)
椅子のクッション材の違いが、官能量と体圧分布量に与える影響を検討した。座ると「硬くてコツンとあたる感じがする」クッションは、「接触面積が狭い」傾向があり、「最大圧力値が高い」傾向が見られる。座ると「不快な感じがする」クッションは、「接触面積が狭い・平均圧力値が低い・最大圧力値が高い」傾向が見られる。座ると跳ね返る感じがする」クッションは「平均圧力値が高い」傾向が見られることが考察された。